桃谷川の清流を守る会の第1回総会

平成27年7月23日 ピアザ淡海県民交流センターにて、桃谷川の清流を守る会の第1回総会が行われました。

総会では、会員希望者10名、関係者5名が集まり、役員の選出等を行い、特別講義として、元大阪市立大学 大学院教授の畑明朗先生をお招きし、滋賀県内における最近の環境問題に関わるお話を事例あげてお話していただき、大変勉強になりました。

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講演会 要約

「桃谷川の清流を守る会」設立総会の日,当会の顧問にご就任頂きました畑明郎先生よりご講演を頂きました。

畑先生は,大阪市立大学大学院教授,日本環境学会会長等を歴任された環境政策論の第一人者です。滋賀県下の廃棄物問題についても,長年に渡り,地元の住民の方々とともに解決に向けて取り組まれています。

講演会では,「滋賀県下の廃棄物問題」とのテーマの下,畑先生の直接関わられた滋賀県下の廃棄物問題の事例を中心に,全国規模の問題に至るものまで,幅広くお話をいただきました。主に「どのような問題が発生したのか」,「その問題を解決するためにどのような取り組みがなされたのか」といった点から解説をいただきました。

また,このような事例を踏まえ,住民が地域の環境を守っていくためには,どのような活動を行っていくことが効果的かについてもお話をいただきました。今後,桃谷川とその周辺の自然環境を守るために活動をしていく我々にとっても,大変示唆に富むお話となりました。

以下,その概要や感想についてご報告いたします。

 

1.豊島汚染土壌搬入問題

香川県の豊島で発生した大量の汚染土壌が,大津市にある産廃処理施設に搬入される計画が明らかとなり,地域住民を巻き込む大問題となりました。

豊島は瀬戸内海に浮かぶ島です。ここに自動車のシュレッダーダストなどの産廃が大量に不法投棄されました。弁護士の中坊公平氏が弁護団の団長となり,住民が香川県を相手に公害調停を起こしたことでも有名です。

当初,産廃は約50万トンとされ,隣接する直島で焼却処分されていました。しかし,その後,産廃の置かれていた下部の土壌そのものも汚染されていることが分かり,産廃が全部で約90万トンまで膨れ上がりました。香川県はその汚染土壌については焼却処分ではなく水洗浄で処理することを決め,県外のいくつかの業者に入札をかけたところ,大津市の産廃業者が落札しました。ただ,通常であれば,水洗浄処理の費用は1トン当たり1万円から2万円程度要するのですが,この産廃業者は1トン約6000円という異常な安値で落札したことから,そのような安い費用では到底適正な処理ができるはずがないということで,大津市やその周辺の住民が強く反対しました。地元住民の方231人が申立人となって公害調停を起こし,最終的には,大津市の新しい市長も反対に回って,結局香川県は搬入を断念しました。

それでもこの業者の産廃処理施設には全国から年間30万トンともいわれる汚染土壌が運び込まれ処理されています。

 

2.福井県敦賀市の不法投棄事件

福井県敦賀市のJR北陸トンネルの上に採石場の跡地があったのですが,そこが産廃処分場に転用されました。もともと産廃処分場の許可容量は約20万立法メートルまででしたが,その6倍に当たる約120万立法メートルもの産廃が捨てられたため,産廃処分場が持ちこたえられず,真下の北陸トンネルにまで汚染水が流出する事態となりました。そのため,102億円もの税金を投入され,周辺をコンクリートの遮水壁で囲って汚染水を封じ込めるという処置がなされています。

 

3.栗東RD産廃処分場問題

滋賀県最初の産廃不法投棄事件です。ここは「安定型処分場」という有害でない産廃だけを埋められる処分場でした。しかし,事業者は,医療廃棄物など安定型処分場では埋められない有害な産廃ばかりを捨てました。しかもその量は許可容量24万立方メートルの3倍の72万立法メートルでした。そのほかに廃油の入ったドラム缶が約300個も出てきました。しかもそのドラム缶は意図的に壊されていて廃油が全部流れ出てしまっていた状態でした。

地下水を分析したところ,ありとあらゆる有害物質が処分場の内外で検出されました。特に水銀やダイオキシンの濃度は国内で過去最悪の結果でした。また,下流3キロメートルのところの水道水源用の井戸から基準の6割まで達するヒ素が検出され,取水停止となりました。

住民は有害物質を全量撤去することを要求しましたが,莫大な費用がかかるため一部撤去とされました。それでも70億円という莫大な税金が投入されました。業者からはわずか900万円しか回収できなかったそうです。なお,事業者は,当時の栗東町長の娘婿です。

 

4.大津市北部ニンビー問題

大津市の北部,伊香立・和邇・栗原という三つの地域には,産廃処分場や建設残土の捨て場が集中しています。このような迷惑施設は,ひとつできるとそこに集中する傾向があります。大津市北部には十数か所の施設が立地しており,いくつもの問題が発生しています。

(1)南庄町の残土捨て場問題

地元の業者が農地のかさ上げと称して建設残土を積み上げたのですが,そこから鉛・ヒ素・シアン・フッ素といった有害物質が検出されました。特に猛毒のシアンが検出されたことで,大津市も対策を始めましたが,全量撤去には莫大な費用が掛かるため,汚染土壌を遮水シートとアスファルトで囲うという封じ込める処置となりました。大津市の周辺河川調査結果では鉛の最高濃度は基準値の1.5倍ということでしたが,畑先生や地元の土地改良区の方が調査したところ基準の110倍という高濃度の鉛が検出されました。これは,大津市が鉛の検出されにくい天気の良い日を選んで調査をしていたためだそうです。

(2)比叡山延暦寺大霊園横の残土捨て場問題

滋賀県で一番大きい,一万基以上の規模の墓地の真横に,京都市の産廃業者が残土の山を築きました。許可容量を超す土砂が搬入されたため,雨が降るたびに土砂崩れと濁水流出を起こし非常に危険でした。そこで,住民350名が大津市を相手に公害調停を申請しました。大津市が土砂崩れ対策工事等を行うことで決着しましたが,撤去には至っていません。

残土の埋め立てについては法律上の規制がありません。大津市は,独自に残土規制条例を作り,3000立方メートル以上の残土を埋め立てる場合は許可制としています。ただ,許可後の監視が甘く,有害物質の搬入や許可容量以上の搬入を防止できていないのが現状です。また,滋賀県全体を規制対象とする残土条例はありませんから,大津市以外では何も法的な規制がないのが現状です。大阪府や奈良県などで降雨時に残土の山が崩れる事故が起きており,危険な状況です。

 

5.高島市放射能汚染木くず不法投棄事件

高島市に鴨川という小さな川が流れていて,琵琶湖に注いでいます。その河口付近にある滋賀県が管理している河川通路に業者が放射能に汚染された木くずを敷き詰めました。また,河口付近の河川敷には放射性木くずを詰めた土嚢を77袋放置しました。この放射性木くずは福島県中通りにある製材所から搬出されたものです。東大卒の元キャリア官僚が東電から4億円で処理を受注しましたが,処理できず,結局3億円かけて全国にばらまきました。畑先生らが地元の住民とともに刑事告発をしました。滋賀県警や大津地検がなかなか動かず,起訴までに半年以上も掛かりましたが,結局有罪となりました。木くずは撤去されて北関東に運ばれたそうです。

滋賀県は水浸しの状態で木くずを放射能測定し,3900ベクレルと発表しました。しかし,畑先生らの依頼した京都市民研究所が乾燥させて測定したら,12000ベクレルとなり,国の管理する指定廃棄物の基準となる8000ベクレルを超えました。そこで,畑先生らが滋賀県に乾燥させて測定をやり直すように抗議しましたが,結局滋賀県は応じませんでした。滋賀県は水浸しの状態で測定することで,指定廃棄物の基準以下となるようにしたのです。

 

6.高島市ごみ焼却施設ダイオキシン問題

高島市では,ごみを焼却するガス化溶融炉から出る焼却灰に基準を超えるダイオキシンが含まれていたのに,データを改ざんして長年に渡り大阪湾のフェニックスに搬入して埋めていた問題も最近明らかになりました。

 

畑先生の講義後,活発な質疑応答が行われました。

先生の講義とその後の質疑応答を通じて,畑先生は,次のようなことをおっしゃっていたと思います。

・施設から排出される汚染物質を100パーセント除去することはできない。何パーセント除去できれば良しとするかの話となる。どうしても少しは汚染物質が出てしまう。造らないことが一番良い。

・建設残土は現状としては産廃ではないが,それでも処理するにもお金がかかる(これを「逆有償」というそうです。)。そうすると,残土のなかに有害物質を混ぜて処理業者に渡してしまおうという誘因が働きやすくなる。現に残土捨て場が有害物質で汚染される事件が多発している。

・残土捨て場を規制する法律はない。大津市には残土条例があるが,滋賀県には条例がないため,大津市以外の地域では残土捨て場の設置許可は不要である。

・残土捨て場の設置を防ぐには,過去に滋賀県内において残土捨て場から有害物質が発生した事例が多くあることを挙げて,建設残土に有害物質が含まれていることやその恐れがあることを主張して,住民運動を起こしていくことが必要である。

・住民運動では,環境保護団体を作って学習会を重ねたり,周辺の住民に普及啓発していったりして活動を盛り上げていって,県や知事と交渉して対応を求めていくというやり方が有効である。

・住民運動ではマスコミを活用することも大切である。高島市放射能汚染木くず不法投棄事件では,雑誌や新聞社の記者が記事を書いてくれた。それで,行政や企業を牽制することが必要である。

・滋賀県に残土条例を作らせるための働きかけをしていくことも必要である。行政は何か問題が起きないと対応をしない(京都府は城陽市の山砂利採取場跡に産廃が不法投棄され、水道水源用井戸が汚染されたので残土条例を作った)。

・畑先生の取り組んだ問題でも,南庄町の残土捨て場の事例や,高島市の放射性木くず不法投棄事件などで見られるように,行政は結果が基準以下となるように条件を選んで検査したり,基準を超えた検出結果を公開しないなどと,信用できない面がある。

 

田代地区の農業は,桃谷川の極めて清浄な水質に依存しています。桃谷川の水が少しでも汚染されると,この地域の農業は成り立ちません。現在の技術では,施設から汚染物質を完全に除去することができない以上,施設の立地は絶対に許してはいけないと,畑先生のご講演をお聞きして改めて思いました。